糖尿病に対する測定値、ヘモグロビンA1cについて
皆様こんにちは。5月末になり少し梅雨の気配がしてきました。近くを散歩しているとなぜか紫陽花(あじさい)が満開であり、ついついみとれてしまいました。
本日は当クリニックで導入している糖尿病の測定機器についてお話させていただきます。糖尿病で最も重要な値はご存知でしょうか。糖尿病患者様ならみなさん知ってらっしゃると思いますが、ヘモグロビンA1c(HbA1c)(グリコヘモグロビン)です。ヘモグロビン自体は、皆様の赤血球の中に存在し、体内に酸素を運ぶ物質です。このヘモグロビンが血液の中のエネルギー源であるブドウ糖(血糖)と結合したものがヘモグロビンA1c(HbA1c)です。ヘモグロビンの中の割合で表すので%(パーセント)という単位です。血糖がいつも高いとHbA1cの割合が増加するので糖尿病の状態がわかります。赤血球の寿命は約3-4ヶ月ですから、赤血球の半分が2ヶ月で入れ替わります。つまりHbA1cは過去1~2ヶ月の血糖の状態を反映するので血糖の平均値と呼ばれるのです。検査した日の食事に影響されないですし、数日前の過食や絶食には影響されないため、この1-2ヶ月の糖尿病の状態を正確に知ることができまし、患者様の状態を把握する上で一番大切な検査です。正常値は4.6~5.9%で、6.0~6.4%を境界型糖尿病、6.5%以上を糖尿病と説明しています。合併症を抑えるためには、7%以下に抑える必要があります。当クリニックでは高齢の方も含めて7%に抑えることが、糖尿病合併症を発症させないし、血栓、プラーク、動脈硬化を進行させない、脳卒中、心筋梗塞、眼、神経、腎臓の機能を悪化させない値と毎回説明しております。
この非常に大事な値であるHbA1cは、患者さんと一緒になり医師も一喜一憂するデータですが、この値を測定するために、実はHPLC法、酵素法、免疫法という3つの方法があります。
大学病院を含めた大病院はどこもHPLC法であり学会発表、論文発表もこの方法が最もスタンダードです。
原理は、HPLC (High Performance Liquid Chromatography: 高速液体クロマトグラフィー)法は、カラムと呼ばれる装置に高圧で検体を流し、分子の大きさと荷電状態に応じて血液成分を分離する、最も高精度な手法です。酵素法は、HbA1cの糖化部分を2種類の酵素を切り出して測定します。免疫法は、抗体を用いた免疫化学的な手法で計測します。
大病院ではHPLC法、クリニックでは免疫法が多く、健診センターや大手外注会社は酵素法を導入しています。その理由は機器の値段です。HPLC法は、免疫法の機器より購入価格が10倍以上高価です。そのため多くのクリニックでは、安価な免疫法の簡易測定器が多く導入されています。簡易測定器であろうと、専用測定器であろうと、出てくる値は同じHbA1cなのですが、実はその精度には天地の差があります。正確性は、本当の値(真値)に対して、どれ位の差があるかという指標です。例えば、本来はHbA1c 7.0%である検体を計測した場合、HPLC法で測定したデータは±1%未満ですから、ほとんどのデータは6.93%〜7.07%の間に収まります。これに対して、免疫法の場合は±20%ですから、データの分布は5.6%〜8.4%にも及ぶのです。このデータのばらつきでは、毎回採血して、(よく頑張りましたね)とか(次回からは頑張りましょう)との説明が難しくなってきてしまいますし、患者様の中には(こんなに頑張って運動して食事制限したのになぜHbA1cが上昇するのか?)と憤ったり、治療に対してやる気が失せる方もおられるでしょう。そのためこの精度が非常に大事なことがわかると思います。
当クリニックではアークレイ社製の高性能自動HbA1c測定器(ADAMS Lite HA8380)(HPLC法)を導入しておりますので安心して医師の説明を受けてください。(追伸)酵素法はHPLC法と比較して平均0.1%程度低い値で表示されるという論文をみつけました。でも毎回0.1%プラスして考えるのも手間がかかりますね。。。